Tips
建築写真の撮り方・考え方|外観の撮影
前回のTipsでは、「住宅建築撮影におけるカメラのアングルとポジションの取り方」というテーマでお伝えしましたが、今回はさらに掘り下げ建物の外観撮影方法について住宅建築だけでなく商業建築の撮影事例も交えてご紹介いたします。
① 平屋の外観撮影:建物の”座り”を良く見せ、安定感を演出する
上の2枚の写真(平屋住宅と1階建商業施設)はただ真正面で撮るだけでなく一工夫してあり、少し低めのアングルからレンズを上方向にシフトして撮影しています。平屋のように背が低く幅のある建物の場合、低いアングル(1m程度)でレンズを上にシフトすることで画面に安定感が増し、迫力ある印象的な写真となります。また、低めのアングルから構えることで庇の下などの情報も得ることができます。
② 二階建ての外観撮影:天地左右の余白とバランスを意識する
二階建て住宅の外観撮影は、アイレベルからの撮影が基本となります。敷地に対しど真ん中に建物が建つことは珍しく、左右いづれかに建物自体は配置されますので、駐車場や外構との位置関係を考え左右と天地をどこまで入れるかがポイントとなります。当然、写真は建物から離れて撮影することで、その迫力が失われていきますので「可能な限り近づく」というのが基本にあります。
③ 振り構図で奥行や要素を見せる
どの撮影においても正対(正面)、振り構図のそれぞれを撮影します。振りで撮る際のアングルは、正面のときに見せられなかった要素をどの程度見せるかで判断します。振り構図の撮影を行う際に注意すべきはやはりパースです。可能な限り建物の形状を残し撮影できるかがポイントとなります。
正面では見えていなかったバルコニー部分などが振り構図では写っていますし、建物の形もよりよく伝わるのでこちらがメインカットに選ばれる可能性も大きいですね。
上記同様に、バルコニー部分が明確に表現されていますし、玄関との位置関係も明確になります。
④ 構図の決め方は「見せたい要素がどれだけあるか」で判断する
画面上部に茂る木々や青空も美しい背景ではありますが、家の前に伸びるアプローチの石畳がより重要な要素と判断し、やや下の比率が大きい構図となっています。青々と茂る芝生やそこに射す木漏れ日も魅力的、ブランコやサッカーボールも良いアクセントになっています。
背後には背の高い木々が生い茂りその後ろの青空も快晴なのに対し、家の前は荒地となっていますので大胆に下を切り、上部を大きく入れたカットとしています。当然植栽や外構計画が施されていれば、位置も自ずと変わってきます。
⑤ 焦点距離の決め方
「焦点距離」というのは、ものすごく簡単に言うと「どの程度アップで写るか」ということです。
左の写真の場合、駐車場や植栽が全部写ってはいますが肝心の家が小さくなり、写っている面積は車とほぼ同等。これでは建築を撮りにきたのか、車を撮りにきたのか分からないほどですので、やや長めのレンズで撮ったものが右の写真になります。一枚の写真にあらゆる要素を入れることが必要なときもありますが、建築写真は基本的に組写真で表現されるものであると考えていますので、植栽の部分は別途撮ればよいという判断をすることもあります。
また、建築物の近くから17mmなどの超広角レンズで撮った場合と、離れたところから50mmなどの標準レンズで撮った場合とでは、写っている範囲は一緒でも、望遠圧縮効果の違いによりその写り方は全く別のものになります。上の写真に限らず多くの場合がそうなのですが、家に対して道路の引きがさほどありませんので、超広角レンズで撮ることになります。超広角レンズであまり多くの要素を画面に入れようとしすぎると、手前のものほど大きく引き伸ばされて写り、奥のものほど小さく写りますので、先ほども言及したように手前の車のほうが家より大きく写ってしまうような事態に陥ります。そうならない為にも、要素を整理しながら適切な焦点距離、または立ち位置で撮影することが大変重要になってきます。
この建物の場合、正面(正対)写真に捕らわれず、長めのレンズを用いて撮影したこのカットが建物全景を表現するに相応しいカットだと思います。
⑥ 適切なトーンで撮影を行う
左の写真は、カメラで撮ってから何も手を加えずに出力した状態の写真です。ドア部分など影になっているところが黒潰れし、手前の塀のディテールは白飛びしていてよくわかりませんし、背景の空もどんよりしています。何故こうなってしまうのかというと、カメラは人間の目のように明暗を瞬時に判断して、暗いところを明るく見せて明るいところを暗く見せるといった調整が出来ないからです。現像ソフトの自動調整機能の精度も上がってきましたが、やはりまだまだ未熟ですので、現像時に人為的な調整をすることが必須になってきます。現像時に適切な調整を施したものが右の写真になります。このような仕上がりとする為に必要なのは、まず何より撮影時に「適正露出で撮っていること」です。撮影時にすべてカメラ任せ、現像に頼り切った撮影をしていると明るい部分が白飛びしてしまったり暗い部分が黒潰れしてしまい、このような後処理のしようがなくなってしまいます。
番外:見せすぎない良さ
最後に大型住宅や商業建築など全景を入れてしまうとスケールの大きさから焦点が絞られずインパクトの薄い写真となることもあります。 そんなときは「見せすぎない良さ」と言う考え方で、全体の一部を切り取ることで印象的な写真となることもあります。
以上、ご参考になりましたでしょうか。
次回は玄関やエントランスの撮影方法についてご紹介いたします。